元号が平成に変わる少し前、1988年10月1日にFMラジオ局のJ-Waveが開局されました。
開局当初のJ-Waveの大きな特徴として洋楽しかオンエアされず、スタイリッシュで都会的なイメージを築く一方、J-Waveで邦楽がオンエアされること自体に貴重性が帯びていきます。
そんな中で、J-Waveでオンエアされる邦楽という意味でJ-POPという言葉が生まれます。
烏賀陽弘道さんの著書『Jポップとは何か』の中で当時J-Waveのチーフ・プロデューサーであった斉藤日出夫さんはこう振り返っています。
まず、演歌やアイドルはダメ。サザンオールスターズ、松任谷由実、山下達郎、大瀧詠一や杉真里はいい。が、アリスやチャゲ&飛鳥、長渕剛はちがうだろう、というふうに感覚的に決めていった。
J-POPという言葉の誕生と前後して、1987年4月に国鉄がJRへと名称を変更したことを皮切りに、1988年10月に日本たばこ産業がJTへ、1992年4月に農協がJAへと名称を変更しています。
そして、1993年5月15日にはJリーグが開幕します。
このJリーグのブームも相まって、「J」という言葉が爆発的に普及し、J-POPという言葉も一気に普及します(ちなみにJRやJリーグに先駆け、1986年には「J」を冠したアルバム『J.BOY』を浜田省吾さんがリリースしています)。
また、J-POPという言葉が誕生したタイミングとほぼ同時期、後の渋谷系の中心的存在となるピチカート・ファイヴやオリジナル・ラヴ、フリッパーズ・ギターらが活躍し始めます。
渋谷系とは前述のバンドやフリッパーズ・ギター解散後のコーネリアスや小沢健二さんらを指し、洋の東西を問わず様々な音楽を基盤にした都市的な音楽で、J-Waveの価値観とも相性のいいものでした。
この渋谷系という言葉が一般的に使われるようになるのは1993年頃からだと言われており、つまりJ-POPという言葉と同じタイミングで渋谷系という言葉も普及していきます。
ここで渋谷という街が持つ文化を振り返ってみます。
1973年、それまで池袋を拠点としていた西武・セゾングループが渋谷に進出し、パルコをオープンします。
このパルコを中心として、西武・セゾングループのライバルである東急グループも加わり、渋谷の再開発が進んでいきます。
この再開発の特徴はセゾン文化と称されるように出版や音楽、演劇、美術などの文化にも力を入れる一方、街そのものを広告媒体にするということにありました。
この文化と消費と広告を軸とするような街づくりはパルコ文化と呼ばれ、音楽やファッションと共に日本の街の雛形として全国に広がっていきます。
特にパルコやラフォーレと共にタワーレコードやHMVといった外資系レコードショップが全国の地方都市に広がっていく様を『Jポップとは何か』の筆者である烏賀陽弘道さんは「全国総渋谷化現象」と呼んでいます(また、星野源さんの『POP VIRUS』のタイトルの言葉の生みの親である川勝正幸さんの言葉「世界同時渋谷化」とも言い換えられるかもしれません)。
そうした渋谷的な価値観を持った街が日本全国に広まっていく一方、90年代はテレビドラマやCMとのタイアップでCDが爆発的に売れていた時代でもありました。
そのような需要とも合致し、外資系レコードショップも1993年以降に急激に増えていきます。
さて、J-POPという言葉が持つイメージが随分広がった現在。
今J-POPのど真ん中で活躍しているあいみょんさんは不思議とJ-POPが始まった頃のイメージと重なってきます。
2018年2月16日のミュージックステーションに初出演したあいみょんさんは様々な名盤ジャケットを背景に「君はロックを聴かない」を披露しました。
この中で印象的だったのはあいみょんさん自身がセレクトしたという邦楽のチョイスです。
特に浜田省吾さんの『J.BOY』と小沢健二さんの『LIFE』の2枚のアルバムが並んだ瞬間は、J-POPという言葉が持つ「J」と渋谷の歴史を感じさせるものでした。
あいみょんさんが去年ミュージックステーションに初登場した時に名盤ジャケットを背景に演奏をしていましたが、自身がセレクトした邦楽のチョイスはまさに今のあいみょんさんに繋がっていますね。 pic.twitter.com/cTZvC3ed7I
— チャポカ a.k.a. チャート式ポップカルチャー (@chartpop696) 2019年2月14日
そして、2019年2月16日のSONGSに出演した際、川崎市岡本太郎美術館や神保町にある古書店を訪れており、あいみょんさんが持つセゾン文化的価値観が垣間見える瞬間でもありました。
また、先日リリースされた『瞬間的シックスセンス』はCDの発売日にサブスクリプションサービスで解禁するという現代的な感覚もある一方で、初回盤や特典DVDといった最近のCDによくある特典もなく、CDもあくまで作品なのだというこだわりは、上記のミュージックステーションでチョイスしたJ-POPの時代を思わせます。
2019年、パルコは50周年を迎え、渋谷のパルコもリニューアルオープンされます。
パルコとあいみょんさんの相性は非常に良いと思うのですが、何かコラボレーションなどがあれば非常に楽しみです。
新しい時代のJ-POPの始まりを期待して。