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(コラム)ウェス・アンダーソンとポール・トーマス・アンダーソン

現在、ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』とポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』が公開されています。

同じアンダーソン性であるだけでなく、同世代で同時期に長編映画デビューし、共にシネフィルでもあり、こだわりが強いが故に両者とも他の映画監督にはない唯一無二な作風の映画を撮り続けている監督ですが、共に2014年以来となる新作を同時期に劇場で観ることができることは映画ファンにとってはとても嬉しいことです。

 

以下は、2人のフィルモグラフィーです。 

公開年

ウェス・アンダーソン

ポール・トーマス・アンダーソン

1996年

アンソニーのハッピー・モーテル

ハードエイト

1997年

 

ブギーナイツ

1998年

天才マックスの世界

 

1999年

 

マグノリア

2001年

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

 

2002年

 

パンチドランク・ラブ

2004年

ライフ・アクアティック

 

2007年

ダージリン急行

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

2009年

ファンタスティック Mr. FOX

 

2012年

ムーンライズ・キングダム

ザ・マスター

2014年

グランド・ブダペスト・ホテル

インヒアレント・ヴァイス

2017年

 

ファントム・スレッド

2018年

犬ヶ島

 

 

ウェス・アンダーソン監督の新作『犬ヶ島』は監督作としては『ファンタスティック Mr. FOX』以来のストップモーションアニメで、去年公開されたストップモーションアニメの『KUBO』であったり、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』に続く日本を舞台にした作品です。

 

それ故に日本に住む人が観ると、他の国に住む人達よりも入ってくる情報量が多いのですが、それは声優陣にも当てはまります。

自身も声優として出演している野村訓市さんが監督直々に頼まれiPhoneで録音したという声優陣には渡辺謙さん、村上虹郎さん、オノ・ヨーコさん、RADWIMPS野田洋次郎さん、夏木マリさん、山田孝之さん、松田龍平さん、松田翔太さんなどらが並び、その豪華さには思わず興奮してしまいます。

 

もちろん、ウェス・アンダーソン監督作品の特徴でもあるキャンディーカラーを基調とした色彩で描かれるシンメトリックな映像と直線的なアクションは今作でも健在で、更に今作では日本映画への愛に満ちた様々なオマージュとそれ故に起こっている曲解されている日本文化が混ざり合い、独特の可笑しみを携えています。

 

ストップモーショーンアニメ故のいつも以上に映像を完璧にコントロールしている点と『グランド・ブダペスト・ホテル』から続く現実社会にもコミットしたような物語は、まさに現在のウェス・アンダーソン監督ならではの作品になっています。

 

一方、『ファントム・スレッド』はポール・トーマス・アンダーソン監督作としては『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以来となるダニエル・デイ=ルイスとタッグを組み、同作品から4作連続となるレディオヘッドジョニー・グリーンウッドが音楽を担当するという、正真正銘の天才3人が揃った映画となっています。

chart-pop-696.hatenablog.com

 

上記のフィルモグラフィーを見ると、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の前後5年が空いていますが、この作品以降の映画は筆圧が上がり、監督にとっても役者にとっても憑依的な作品が増え、それ故にダニエル・デイ=ルイスホアキン・フェニックスのような俳優にしか主演が務まらないであろう、明らかなターニングポイントになっています。

 

そして、アカデミー主演男優賞で6回ノミネートされ3回も受賞しているダニエル・デイ=ルイスはこの作品で役者を引退すると発言していますが、役に入りすぎるが故にもしかしたら『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の時の監督のようにしばらく次の仕事に手がつかないような状態なのかもしれません。

この作品で引退してしまうというのはあまりに格好良すぎますが、また俳優としての彼の仕事を見てみたいです。

 

また、ポール・トーマス・アンダーソン監督といえば、クエンティン・タランティーノ監督やクリストファー・ノーラン監督と並ぶフィルム原理主義者ですが、今作でもそのフィルムにこだわった映像のバシッと決まったショットの力強さは健在です。

ウェス・アンダーソン監督もそうですが、ポール・トーマス・アンダーソン監督もそれ以上の完璧主義者であり、本作では監督だけでなく、脚本、制作、撮影監督まで担当していることからもそのこだわりの強さがみえてきます。 

更にこうして両監督作を並べてみると父性というものを繰り返し描いていることもみえてくるのではないでしょうか。

 

というように、2人の天才アンダーソン監督の映画が劇場で観られるという絶好のタイミングです。

両作品とも映像から役者、音楽、そして細部にまでこだわりまくった作品ですので、是非とも劇場で観ることをオススメします。