チャート式ポップカルチャー

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(コラム)『椎名林檎 (生)林檎博’18 ー不惑の余裕ー』から椎名林檎のテーマを読み解く

本日11月25日に誕生日を迎えた椎名林檎さんは、現在、デビュー20周年記念となるライブツアー『椎名林檎 (生)林檎博’18 ー不惑の余裕ー』を開催しています。

そこで、ライブのセットリストや歌詞、インタビューでの発言から、最近の椎名林檎さんの作品のテーマや構造がどのようなものかを読み解いてみたいと思います。

 

まず、大きなヒントになりそうなのは2017年12月5日に放送された『news zero』内の桐谷美玲さんによるインタビューの中での「基本的には私の活動の全般は女性がブスになる瞬間を描くこと」という発言です。

直後に「元の造形じゃなく、人のせいにもしたくなるような色々なこと」と補足しているように、もちろんこれは容姿を揶揄することではありません。

では何なのか。

それは上野千鶴子さんの著書『女ぎらい』などの中で言及されているミソジニーにまつわることではないでしょうか。

同書では、「ミソジニーとは男にとっては「女性蔑視」、女にとっては「自己嫌悪」」と説明しています。

インタビューに戻ると、「誰かを好きになったりすると、今までそんなことを思ったことのない意地悪なことを思ったり、嫉妬心が生まれることがある」といった要旨の言葉で「ブスになる瞬間」を補足しています。

つまり、「ブスになる瞬間」というのは内なるミソジニーによって引き起こされる諸々の事態なのではないでしょうか。

 

また、同インタビュー内ではアルバムの曲順へのこだわりについても発言されています。

「ブスはブスなりの生き方を提示するというのを必ず間に入れてる」とテーマの扱い方を説明し、「大体、中盤に立ち上がり方の提案みたいなのがあって、どんどんどんどん溺れるが、はい上がる瞬間をちゃんと描いて、良かったねというふうに終わるようにしている」という構造としての流れを意識していることを述べています。

ここで思い出すのが、一木けいさんの『1ミリの後悔もない、はずがない』という小説です。

この小説は複数の女性の視点から描かれる群像劇なのですが、「ブスになる瞬間」と言えるようなシーンが多々描かれています。

そして、この小説の帯には椎名林檎さんのコメント文が掲載されており、そこでは「私が50分の円盤や90分の舞台で描きたかった全てが入っている」と述べられています。

というわけで、インタビュー内で述べられた発言はアルバム作りだけにとどまらず、椎名林檎さんの作品のテーマや構造に一貫するものと言えるでしょう。

そして、このテーマや構造が1曲の中で表現されているのが「目抜き通り」や「人生は夢だらけ」といった2017年にリリースされた曲だと言えます。

youtu.be

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さて、現在開催されている『椎名林檎 (生)林檎博’18 ー不惑の余裕ー』のセットリストをこのテーマと構造に当てはめてみましょう。

 

どうして 歴史の上に言葉が生まれたのか

太陽 酸素 海 風

もう充分だった筈でしょう

 

「本能」

オープニングを告げる曲はRhymesterMummy-Dさんを迎えた「本能」。

哲学的な問いを含むこの曲から始まるセットリストの構成は、同じく哲学的な問いの歌詞から始まる「目抜き通り」の構造とも重なってきます。

 

唯一の母親に、娘は漏れなく取って置きの魔法をかけられているのだ。

 

「ありきたりな女」

ライブ中盤に位置するこの曲は「そして母になる」瞬間を描いた曲ですが、この曲が収録された『日出処』というアルバムのコメンタリーでは「絶望だったり大きな喜びだったりが全部一緒になったような瞬間」という発言があることからも、『女ぎらい』でも言及されている母と娘のミソジニーとして読み替えられる余地があります。

 

それは人生 私の人生 誰のものでもない

奪われるものか 私は自由

この人生は夢だらけ

 

「人生は夢だらけ」

そして、立ち上がり方の提案と言える「人生は夢だらけ」では、拳を突き上げる椎名林檎さんのライブパフォーマンスが印象的で、そのヒロインではなくヒーローたらんとする様の格好良さに痺れてしまいます。

 

つらい仕事に ご褒美のないときも

惚れた人が選んでくれないときも

不幸だった訳がわかっている今は

損しただなんてまるでおもわない

 

「目抜き通り」

 

敵か味方か

勝ちか負けかを

決めた瞬間

急に世界が

嗚呼 暗く狭まっていくの見てたでしょ

さあ 帰ろう自由へと

 

「ジユーダム」

本編、最後を飾る2曲はトータス松本さんを迎えた「目抜き通り」からの「ジユーダム」。

まさに良かったねという風に本編が終わっていく様な構成です。

そこには、今回のライブでは演奏されなかった「自由への道連れ」という曲も「ジユーダム」の対として浮かび上がってきます。

 

断ち切りたい

今だけは男にも女にもならない

裁かれたい

悴んでいる

誰ひとりとて

損ねないように

 

「自由への道連れ」

 

この様に一貫してみえてくるのは、「ブスになる瞬間」から解放されて自由になろうというメッセージです。

2017年12月6日にYahoo!で公開されたインタビューで椎名林檎さんは「15歳の女の子全員が「人生、余裕!楽勝!!」と清々しく言い切れる世の中になればいい」と発言しています。

まさにその様な、女の子が人生を謳歌できる世の中に対しての肯定を『椎名林檎 (生)林檎博’18 ー不惑の余裕ー』から強く感じます。

そして、そんな椎名林檎さんの姿勢に強く背中を押される女の子は非常に多いと思います。

 

2020年の東京オリンピック/パラリンピックの開会式や閉会式を担当される椎名林檎さんですが、この様なテーマや構造がどの様に活かされるのかは気になりますし、ますます今後の活動にも期待してしまいます。

そんな素晴らしいライブでした。

 

以下、セットリスト

 

1. 本能

2. 流行

3. 雨傘

4. 日和姫

5. APPLE

6. MA CHERIE

7. 積み木遊び

8. 個人授業

9. どん底まで

10. 神様、仏様

11. 化粧直し

12. カーネーション

13. ありきたりな女

14. いろはにほへと

15. 歌舞伎町の女王

16. 人生は夢だらけ

17. 東京の夜は七時

18. 長く短い祭り

19. 旬

20. 恋の呪文はスキトキメキトキス

21. ちちんぷいぷい

22. 獣ゆく細道

23. 目抜き通り

24. ジユーダム

 

アンコール

25. はいはい

26. 夢のあと