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(コラム)『アベンジャーズ/エンドゲーム』とマーベル・シネマティック・ユニバースが辿り着いた場所

 

現在、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)が11年間続けてきた映画シリーズの集大成とも言える『アベンジャーズ/エンドゲーム』が歴代の世界興行収入記録を塗り替える程の大ヒットを記録しています。

1年前、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が公開される際にはスタン・リーが挙げた『インフィニティ・ウォー』を観る前に予習しておきたい10本を紹介したり、『インフィニティ・ウォー』公開直後の感想ではMCU作品を全て観てから鑑賞するのがおすすめだと書きました。

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実際、現在公開中の『エンドゲーム』もそれまでのMCU作品の集大成であると共に、今までの全ての作品に目配せが行き届いた映画でもあるので、21作品全てを観てから鑑賞するのが最もおすすめする鑑賞方法なのは変わりません。

また、MCUフェイズ3を締めくくる次作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の新予告編が解禁されたことにより公式にネタバレ解禁の許可が降りたので、なるべくネタバレに遭遇しないようなるべく早く観ることをおすすめします。

 

ということで、『エンドゲーム』のストーリーに関する部分には出来るだけ触れず、MCUのこの11年間がいかに凄かったのか、そしてこの11年間でMCU作品がどの様な変遷を辿ってきたかを考えてみます。

 

まず、『エンドゲーム』が公開された直後のSNSには「#ありがとうアベンジャーズ」といったハッシュタグが並びました。

これは『エンドゲーム』公開数週間はネタバレを公式に禁止するとアナウンスされていたことも一つの要因でしょうが、それ以上に『エンドゲーム』の作品としての素晴らしさと11年かけてMCUが成し遂げた功績に対して向けられた言葉のようにも感じました。

1年前のブログにも書いた通り、MCU作品は必ずしも順風満帆な状態から始まったわけではありません。

アベンジャーズ』一作目の時点でも、今では当然だと思えるユニバース化ですら成り立つのかどうかという疑問視も少なくはありませんでした。

ですが、ニック・フューリーがアベンジャーズ計画を遂行しスーパーヒーローを集結させていったように、MCU前人未到の目標を掲げ発表し、しっかりと足場を固めていきながら計画を遂行し目標に到達することを繰り返し、更にそのスケジュールをしっかり守りながらもクオリティを保ち続けました。

また、MCUシリーズ内でのストーリー上の計画と、観客として観せられる興行としての計画をシンクロさせることで、どの作品がお祭りとして楽しむ作品なのかがわかる部分も盛り上げ方として画期的な部分でした。

そういった点で、プロデューサーのケヴィン・ファイギの存在の大きさを改めて実感させられます。

 

さて、11年前の08年はどんな年だったのでしょうか。

もう少し遡ると、00年代はCGのクオリティが上がりアメコミヒーローの実在感が飛躍的に増した時代である一方、9.11同時多発テロが起こってしまった現実に対して、フィクションであるアメコミヒーローに何ができるのかが問われた時代でもありました。

その一つの頂点として08年に公開された『ダークナイト』という作品があります。

アメリカン・ニューシネマがベトナム戦争のトラウマによって生み出されたものだとすると、『ダークナイト』は同時多発テロイラク戦争に対するトラウマによって生み出され、当時の空気感を的確に捉えた映画だったことは間違いありません。

 

その『ダークナイト』と同年に公開されたのがMCU一作目となる『アイアンマン』です。

『アイアンマン』も同時多発テロイラク戦争のトラウマが根底にはあるものの、『ダークナイト』と比べるとカラッとした抜けのいいポップな映画でした。

そこから始まるMCU作品では幾度となく分断が描かれます。

アベンジャーズ』では初めて集結したスーパーヒーロー達が一つにまとまれないところから出発し、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』では組織が乗っ取られることで組織と個人とが対立化し、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ではスーパーヒーローチームそのものが分断してしまいます。

更に『インフィニティ・ウォー』では分断が起こっている最中、更なる対立軸としてMCU最大の悪役サノスによって後戻りができない事態にまで発展してしまいます。

となると、ここ数年で全世界的に分断が問題となり、特にアメリカにおいてはトランプショックが醒めやらぬ現代とシンクロしていたのがMCU作品だったとも言えます。

そして、この11年間のMCU作品で描かれ続けてきた分断に対する総括を提示しているのが『エンドゲーム』です。

それが「#ありがとうアベンジャーズ」という言葉に行き着いたというのはアリアナ・グランデの「thank u, next」が示したことともシンクロしているように思えます。

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分断ということを描き続けてきたからこそ、協力することや相互理解することの重要さが際立ち、時には失敗や挫折を描くからこそ、それを受け入れてやり直すことの力強さが浮き上がってきます。

また、MCUの22作品を通じ理想や理念を曲げることなくコツコツと積み上げることでこんなに高い景色を観ることができることを証明した映画シリーズとなりました。

譲れない部分はあっても、変われる部分はある。

そして、過去は変えられないけれど、未来は僕らの手の中にある。

 

エンターテイメント界の最高峰のシリーズ映画の集大成が現在全国の劇場で公開されています。

ぜひ、映画史が更新されたこの瞬間に立ち会ってみてください。