チャート式ポップカルチャー

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(コラム)カニエ・ウェストを軸に考えるアルバムというフォーマット

5月25日のプシャ・Tの『DAYTONA』を皮切りに、6月1日にはカニエ・ウェスト自身の『ye』、6月8日にはカニエ・ウェストとキッド・カディによるキッズ・シー・ゴースツの『Kids See Ghosts』、6月15日にはNasの『NASIR』、6月23日にはテヤーナ・テイラーの『K.T.S.E.』がリリースされました。

 

5週連続のカニエ・ウェストのプロデュースによるこれらのアルバムの特徴は全作が20分台の収録時間であることであり(またテヤーナ・テイラーのアルバムが8曲であることを除き、他の4作は全て7曲)、ストリーミング時代におけるアルバムのフォーマットの1つの型となるとも言われています。

 

また、カニエ・ウェストの最近の発言であったり、お騒がせな部分が過剰に注目されていた様な状況もありましたが、やはりミュージシャンとしての才能は破格なのだと再確認できる様な連作だったのではないでしょうか(とはいえ、お騒がせな部分が払拭できるかは別の話ですが)。

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さて、カニエ・ウェストの連作が全て20分台だったというだけで、それが新しいアルバムのフォーマットと言われるのに違和感を感じる方もいるかもしれません。

しかし、『808s & Heartbreak』でのオートチューンの使用や『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』がPitchforkで10点満点を取ったこと、ジェイ・Zとのコラボアルバム『Watch the Throne』のリリースなど、ヒップホップだけでなく全ポップミュージックに影響力を持つ様になって以降のここ5年のカニエ・ウェストほどアルバムというフォーマットに意識的だったミュージシャンもいません。

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2013年のカニエ・ウェストの『Yeezus』というアルバムはインダストリアル・ロックを思わせる様なエッジーなサウンドの作品でしたが、そのアートワークは非常に特徴的なものでした。

ジャケットや歌詞カードすらない透明のプラスチックケースにレーベル面の印刷も最小限に抑えたほとんど銀色のCDが収められ、開け閉めする部分には大胆にオレンジのシールが貼られ、開封すら躊躇してしまう様なデザインとなっていました。

それはデジタル配信が中心となっていた時代に、アルバムというフォーマットがCDに囚われていることに対するアンチテーゼの様でもあり、CDというフォーマットの葬儀の様でもありました。

 

一方で2016年の『The Life of Pablo』はリリース後も何度も手直しされていき、アップデートされていくというアルバムになっていたのはストリーミングサービスならではの表現方法であり、実物としてリリースされない作品の完成とは何かと問いただす様な作品でもありました。

 

また前述の『The Life of Pablo』にCDやレコードでのフィジカルリリースのないまま、グラミー新人賞を受賞したチャンス・ザ・ラッパーを客演として迎えたり、2017年にリリースされたドレイクのプレイリスト『More Life』(これもストリーミング時代のアルバムというフォーマットを更新する価値観を提示した象徴的な作品です)や、その流れを汲む様なミーゴスが今年リリースした『Culture II』にカニエ・ウェストが参加していることからも、彼がいかにアルバムというフォーマットに意識的であることがわかるのではないでしょうか。

 

ということで、アルバムというフォーマットはレコードやCDなど、その記録メディアによって規定されていたこともありましたが、インターネットが普及しデータ配信が可能になることによりミックステープやプレイリストと呼ばれる様になったり、そのフォーマットは多様化してきました。

ここ日本でもいよいよストリーミングサービスの定着の兆しが見えてきたタイミングですが、そんなストリーミングサービスの時代に合わせた表現方法もまだ模索の段階にあるのだと思います。

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そんなタイミングでカニエ・ウェストの一連の作品がリリースされたことは、今後の音楽の聴かせ方を提示した象徴的なアルバムのフォーマットの一つの様に思えます。